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●コーチングで人を育てるポイント、秘訣、コツ(2)
■コーチングに必要なスキル(2) |
(3)直観のスキル
「傾聴スキル」のところで、部下の可能性を引き出すためには「部下の聞いてほしいことを聴く」必要があると述べた。
しかし、実際にどうしたら部下の聞いてほしいことが聞けるのか?
ここで出てくるのが「直観」である。
直観と言うと、「いい加減」で「あてにならないもの」といったイメージを持つ方も多いだろうが、実は直感ほどコーチングで「あてになるもの」はない。
コーチングをしている時、上司の目的は、部下に問いを投げかけることで、部下の潜在意識にある答えを引き出すことにある。
一方、上司の直感は、上司の潜在意識にある。
ここは心理学用語で「普遍的無意識」と呼ばれている。
では、もしこのように、普遍的無意識を介して上司と部下の意識が互いにつながっているとしたら、上司の意識のうち、答えの部分に一番近いのはどこだろう?それは、上司の潜在意識である。
では、反対に答えから最も遠い部分はどこだろう?
それは、上司の顕在意識(直観)である。
直観のスキルのポイントは3つある。
1) 考えない
2) 予測しない
3) リードしない
1)考えない
「考える」⇒「次はどんな質問をすればいいのだろう?」「果たして本当にこの部下の中から答えは出てくるのだろうか?」
もし、上司が一生懸命頭を働かせて考えている時、上司の意識の矢印は部下のほうではなく、上司自身の方を向いている。
上司の意識がこのような状態の時は、部下が何を聞いてほしいのかはなかなか分からない。
また、「上司が考えている」ということは、その分、「部下が考えていない」ことを意味する。
従って、この時、上司はむしろ部下の「考えている」ことを「邪魔しない」ようにすることが大切である。
そのためには、「問いかける」ことだ。
もし「どうすればいいですか?」と部下が言ってきたら、あなたは「君はどうすればいいと思う?」と聞き返すわけだ。
2)予測しない
上司がコーチングの展開や結末を予測できたということは、とりもなおさず、そこで出てきた答えが部下の潜在意識からではなく、上司の顕在意識やある意図から出てきた可能性が高いということである。それでは残念ながら、コーチングをしていることにはならない。
3)リードしない
「自分がいい質問をして部下に気付かせてやらなければならない」というふうに謝った解釈をしてしまいがちである。
これは言うまでもなく「上司が答えを知っていて、部下は答えを持っていない」という上司本位の考え方から出てくる発想である。
コーチングにおいては、上司が部下を「リードする」のではなく、むしろ「フォローする」ことが大事になる(ツイッターみたいだ)。
フォローとは「上司が聞きたいことを聞くのではなく、部下の聞いて欲しいことを聞く」ということである。
部下は、実は心の深い部分では自分がその時、何を聞いてほしいのかを知っている。
部下は「自分はいったい今、何を上司に聞いて欲しいのか?」という答えも持っている。
そして、そのヒントはたいがい、部下がその直前に言ったことの中にある。
たとえば上司が「君はどういうことがやりたいんだね?」と聞いたとしよう。
それに対して、部下が「それがあまりはっきりしていないんです。」と答えたとする。
そこで、あなたが上司なら次にどんなことを言うだろう?
フォローするというのは、たとえば「じゃ、何かはっきりしていることはあるのかい?」とか「どこをはっきりさせたいんだね?」といった問いを投げかけることである。
このように、部下の直前の答えと上司の問いの間には何らかの「つながり」がなければならない。
突然ある問いがひらめいたといって、それまでの話とは何の脈絡もない、まったくとんちんかんなことを聞くのが、直観を使うということではない。
この例で言えば、部下が直前に言った「はっきりしていない」という言葉が、次に上司が何を聞けばいいかのヒントを示してくれているわけである。
もし、この時、上司の意識の矢印が部下の方に向いていれば、「それがあまりはっきりしていないんです」という部下の発言の中に、「できればそれをはっきりさせたい」という部下の意向が感じ取れることであろう。
もし、どうしても何を聞いたらいいか分からない場合は、「今、君は何を聞いてほしいのかね?」と部下に聞いてしまえばいいのである。
なぜなら、求めている答えがすべて部下の中にある以上、何を聞くか困った時には、その部下本人に聞くのが一番確実だからである。
そんな時、いくら自分の頭の中をひっくり返してみても、残念ながら答えはいつまでたっても出てこない。
(4)自己管理のスキル
自己管理のスキルとは、上司が部下をコーチングする際、「どういう態度で臨むか」ということについての技術である。
では上司は自分の「何」を管理するということなのだろうか?
これには大きく分けて3つのポイントがある。
1) 自分の頭を管理する
2) 自分の心を管理する
3) 自分の身体を管理する
では、何のために上司は自分を管理する必要があるのだろうか?
それは傾聴のスキルの「3つ目のレベル」、すなわち「部下の話を心で聴く」ためである。
部下の話を心で聴くためには、上司はその部下のために100%「その場にいる」必要がある。
「その場にいる」というのは、単に上司が物理的に部下の目の前にいるということではなく、部下が自らの中にある答えを見つけるのをサポートするために、上司が自らの頭と心と身体を提供する準備を整えている状態を意味する。
1) 自分の頭を管理する
ここで「頭」とは、上司が部下をコーチングする時の「思考」の状態を指す。
「直観のスキル」で「上司は考えてはいけない」と述べた。
しかし、実際には、部下をコーチングしている間、上司の頭の中にはいろいろな考えが浮かんでは消えていくのが普通であり、一切何も考えないというのは不可能に近い。
では、上司が部下をコーチングしている時に、もしも「考えて」しまった場合はどうしたらよいのだろうか?そこで必要となってくるのが「自分の頭を管理する」ということである。
自分の頭を管理するためには、2つのステップを踏む必要がある。
最初のステップが「気づく」ということ。そして次のステップは「手放す」ということ。
最初の「気づく」というステップだが、これは上司が部下の話を聞いているときに何か頭に浮かんでくる考えがあったら、それを「言葉」として客観的にとらえるということである。
自分の頭に浮かんだ言葉に気づいたら、今度はそれを「手放す」。手放すとは、その言葉にとらわれない、あるいはこだわらないということである。
このように、部下の話を聞きながら、頭の中に考えが浮かんでくるのを感じたら、あせらずに「気づいたら手放す」というステップを繰り返す。
これができるようになると、上司はますます楽に部下の話を心で聴けるようになるはずである。
2) 自分の心を管理する
ここで「心」とは、上司が部下をコーチングする時の「感情」の状態を指す。
上司も人間なので、機嫌がいいときもあれば悪いときもある。
しかし、部下をコーチングする際にこうした感情を一緒に持ち込んでしまうと、部下のために100%「その場にいる」ことが難しくなる。
では、上司が感情的になっていて、まともに部下の話が聞けない時はどうしたらいいのだろうか?
これには二通りの場合が考えられる。
1つは、事前に部下と話をすることが分かっているような場合、もう1つは部下にふいに声をかけられたような場合である。
前者の場合は、まずその話し合いに臨む前に、自分で自分の感情を処理するという方法がある。
たとえば、何か不安の種があってイライラしているのであれば、その不安の種をあらかじめ取り除いておく必要がある。
後者のようにふいに部下に声をかけられたような場合は、時間を改めてもらうよう依頼するか、それができなければ正直に自分の心境を部下に伝えた上で話に入るということが考えられる。
上司が感情的になると、えてして操作主義的になりがちである。それは上司の意識の矢印が自分の方を向いた状態になるからである。
この状態から脱するために必要なのは、上司が自らの感情を無視したり抑圧したりすることではなく、適切な方法でその感情を処理することである。そして、それが「自分の心を管理する」ということなのである。
3)自分の身体を管理する
部下が上司であるあなたに話を聞いてもらっていると感じるためには、あなたはどういう体勢をとる必要があるだろうか?
これには3つのポイントがある。
(1) 身体の向き
(2) 身体の高さ
(3) 身体の角度
まず、部下があなたに話を聞いてもらっていると感じるためには、あなたは自分の身体と顔をその部下の方に向ける必要がある。
次に、部下があなたに話を聞いてもらっていると感じるためには、あなたは自分の身体と顔の高さをその部下と同じくらいにする必要がある。(目線を合わせる)
そして最後に、部下があなたに話を聞いてもらっていると感じるためには、あなたは自分の身体を部下のほうに傾ける必要がある。(前傾姿勢)
もし、あなたがふんぞり返って部下の話を聞いていたら、部下はどう思うだろうか?
身体の管理に含まれる他の要素としては、上司の「表情」があげられる。ことさらに「にこやかな表情」を装う必要はない。ごく「自然な」表情が一番いいと思われる。
もう1つ大事なのは「視線」である。
前述した体勢の各ポイントを全て押さえたとしても、視線がふらふらと定まらずにいたら、部下は話を聞いてもらっていないと感じてしまうだろう。
そうかといって部下を「凝視」しては、かえって部下は話しづらいものである。
ここで大切なのは「温かな眼差し」である。上司が部下を本当に信頼していれば、その眼差しも自然に温かくなる。そして、それは部下にも伝わり、話のしやすさに影響を与える。
4)自分の時間を管理する
ここで言う「時間」とは、上司が部下の話を心で聴くために「時間をとる」ことを指している。
また、ここで問題となるのは、時間の「長さ」よりも、むしろ時間の「質」である。
いくらたくさん時間をとっても、その間、上司がずっと自分のために部下の話を聞いていたとしたら、それはまったく時間をとっていないのと同じか、場合によってはその時間自体を取らない方がよかったということにもなりかねない。
たとえ5分という短い時間でもいいから、「この時間はとにかく部下のために話を聴くぞ」と決めて部下との話に臨んだ方が圧倒的に密度の濃いコーチングができる。
(5)確認のスキル
「確認のスキル」とは、上司が部下をコーチングする際、「部下にとって大事なことを確認する」ための技術である。
では、「大事なこと」とはどういうことを指すのだろうか?
これには3つのポイントが3つある。
1) 部下の未来を確認する
2) 部下の現在を確認する
3) 部下の過去を確認する
「確認のスキル」とは部下の未来や現在や過去について確認すると同時に、部下及びその部下の可能性を「確かに認める」ための技術でもある。
なぜ、このスキルが大事になるかと言うと、人間は往々にして自分で自分のことを認めることができないからである。
ある部下が自らの可能性を信じられないとばかりに、それを最大限に発揮することができなければ、その部下はもちろんだが、周りにいる人たちも多くのものを失うことになる。
まず上司であるあなたが部下一人ひとりの可能性を信じるところから始めてほしい。
そうすることが、最終的に、部下が持つ無限の可能性を「守る」ことになる。
1) 部下の未来を確認する
ここで「未来」とは、具体的にどういうことを指すのであろうか?
それは旅にたとえるなら、「目的地」ということになる。
つまり、その部下がどこへ行こうとしているのか、ということである。
目的地の代表的なものは「目標」だが、未来にはもっと広く部下の「ビジョン」とか「夢」といったものも含まれる。
ただ、大切なことは、上司が確認する目標やビジョンは部下本人の中から出てきたものであって、決して上司が「上から与えた」ものではないということである。
部下は日々の雑務に追われるうちに、目標のことが部下の頭の中から薄れてしまったり、ちょっとした失敗をしたことでその目標を達成する自信を失ってしまったりするということがよくある。
そんな時、上司が果たしうる役割とはどのようなことであろうか?
それは、部下自身が立てた目標を部下が忘れそうになったら、それを思い出させてあげたり、自信を失って立ち止まっていたら励ましてあげたりすることである。
ちなみに「励ます」というのは、よくある「がんばれ!」という励ましのことではない。
それは、その目標を達成することがどんなにその部下にとって大事なことなのか、あるいはそれを達成した時に感じる喜びはどのようなものかといったことを思い出させてあげることを意味している。
そして、思い出させてあげる時には、できるだけ「質問のスキル」を使って、部下が自分でそのことを思い出せるようにサポートするのが望ましいと言える。
たとえば、「その目標を達成するのは、君にとってどれほど大切なことなの?」とか、「その目標を達成したら、君はどんなふうに感じるだろうね?」といった具合である。
上司が部下の可能性を信じ、部下自身が望む未来をつねに確認してあげることで、部下は自らの目指す目的地を見失うことなく、前に進むことができる。
2) 部下の現在を確認する
ここで「現在」とは、具体的にどういうことを指すのか?
それは、その部下が今どういう状況に置かれているのか、ということである。
日々の忙しさや感情の浮き沈みに振り回されるうちに、部下は自ら立てた目標やビジョンを目指す旅の中で自分がいったい今、どのあたりにいるのかを往々にして見失ってしまいがちである。
これは言い換えれば「客観性を失う」ということでもある。
そんな時、上司が「君は今、例の目標に対してどの辺まで来ているんだい?」とか「このプロジェクトに対する、君の現在の満足度を十段階評価で表すとどれくらいなのかな?」といった問いを投げかけてあげれば、部下は自らの置かれている状況をかなり客観的に把握できるようになるだろう。
現在地を確認するということに関しては、実はもう1つ大事な要素がある。それは部下の「価値観」である。
価値観とは、その人がどういったことに価値を置いているかということだが、この価値観を確認することが部下の可能性を最大限に引き出す上で大きな役割を果たすのである。
私たちが決断や選択を行う上で私たちが基準にしているものは何であろうか?
この基準にはいくつかあるが、その中心的なものが価値観である。
部下が目的地をめざす旅の過程においても、決断や選択をしなければならない場面が数多く出てくる。
そして、その中にはどんな選択肢を選んだらいいのか部下自身にも分からないこともあるだろう。
そんな時、上司が「君の価値観に照らして考えてみた時、どの選択肢が一番いいと思うんだね?」と確認してあげれば、部下は自らの選択基準を思い出し、今、どの選択肢を選ぶことが自分にとって大切なのかを知ることができるだろう。
3)部下の過去を確認する
ここで「過去」とは、具体的にどういうことを指すのであろうか?
それは、これまで部下がどういう道のりをたどってきたのか、ということである。
その道のりの中でも、この「確認のスキル」において特に重要となるのは、部下の過去における「成功体験」である。
どんな人でも、よくよく振り返れば、自分では失敗ばかりしているように思っていても、必ず1つか2つくらいは成功体験を持っているものである。
しかし、自分で自分のことを認められないばかりに、その成功体験を過小評価し、逆に失敗ばかりを過大評価してしまう人が意外に多い。
ある人が何かに成功する時というのは、たいていその人が本来持っている能力や可能性を最大限に発揮した時である。
したがって、その人の成功体験を確認するということは、とりもなおさず、その人が本来持っている能力や可能性をその人自身が思い出せるようにサポートすることを意味している。
最後に、ここで「部下の過去を確認する」というのは、部下の意識の矢印を過去に向けるためでなく、あくまでも部下が目指す未来に向かって着実に進んでいけるようにサポートするためであるということだ。
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