■ファシリテーションとは |
ファシリテーションとは「集団による知的相互作用を促進する働き」のことです。
集団による問題解決、アイデア創造、合意形成、教育・学習、変革、自己表現・成長など、あらゆる知識創造活動を支援し促進していく働きがファシリテーションです。
もう少し具体的にいえば「中立な立場で、チームのプロセスを管理し、チームワークを引き出し、そのチームの成果が最大となるように支援する」のがファシリテーションです。
また、その役割を担うのがファシリテーターです。
●ファシリテーションのポイント
(1) 活動の内容(コンテンツ)そのものはチームに任せて、そこに至る過程(プロセス)のみを舵取りする ⇒活動のイニシアチブを取りながらも、成果に対する主体性をチームに与えることができます。
(2) 中立的な立場で活動を支援する ⇒ 客観的で納得度の高い成果を引き出していきます。
以上の2つがそろって初めて、ファシリテーターへの信頼が生まれ、チームの自律的な力を引き出すことができるのです。
ファシリテーターはリーダー(意思決定する人=議長)でも司会者でもありません。
会議が始まれば、議長ではなくファシリテーターが進行をリードします。
会議で検討すべきコンテンツ(内容)には立ち入らず、プロセスを舵取りすることで、チームが到達できる最高 の成果に導きます。
と言っても、ファシリテーターは単なる進行役ではありません。
コミュニケーションの場を作り、人と人をつないでチームの力を引き出し、多様な人々の思いをまとめていきます。
その 場に参加しているメンバーの主体性を育み、優れたコンセンサスを生み出していくのです。
議論が対立に陥った場合は、お互いの主張が正しくかみ合うよう、連結ピンの役割をします。
そして、全員が満足できる答えを見つけるまで、あらゆる知恵を引き出していきます。
そう することで、問題解決を促進させ、合意の質を高めていくのです。
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■今までのリーダーと違うこと |
今までのリーダーは、コンテンツにもプロセスにも強い指導力を発揮していました。
それに対して、ファシリテーターは、コンテンツはメンバーに任せ、プロセスのみにイニシアチブを発揮します。
自分の意見を押し通すのではなく、メンバー一人ひとりがリーダーとなるように育て、多数のリーダーを合意によって束ねていきます。
そのことから「支援(ファシリテー ター)型リーダー」と呼ばれています。
ですから、支援型リーダーは組織に一人とは限りません。
組織に代表者が支援型リーダーとなってもよく、また代表者とは別に支援型リーダーがいても構いません。
次に従来型のマネジメントと対比してみましょう。
今までのマネジメントのやり方は、ピラミッド(ヒエラルキー)型の構造を前提に、組織活動を意思決定の連鎖ととらえて考え出されてきました。
組織の機能や目標をブレイクダウンして個人に落とし込む、あるいは個人の特性や能力を組み合わせて組織をつくりあげる、構造的な考え方が根本にあります。
それに対してファシリテーションは、組織活動を人と人との相互関係の集まりと考え、人の能力も働きも、環境や周囲の人々に応じて変化するものととらえます。
そのため、個人(要素)ではなく、人々が協働する「場」(関係性)を重要視します。
ただ、ここで注意してほしいのですが、いくらファシリテーションが優れていても、それだけで組織を動かすのは無理があります。
組織の要になる人間は、リーダーシップ、マネジメント、ファシリテーションのスキルを兼ね備え(あるいは役割分担して)、組織の状態やタスクに応じて使い分けねばなりません。
その都度、どの色合いを強くするかによって、組織運営のやり方を柔軟に変化させるのです。
組織を取り巻く環境が大きく変化するときは強いリーダーシップが、安定的なときは緻密なマネジメントが、変化が絶え間なく起こるときはファシリテーションが適していると言われて
います。 |
■ファシリテーションがもたらす3つの効果 |
1. 学習するスピードが高まる
一つ目は促進という言葉が表すように、成果に達するまでの時間を短縮することです。
できるだけ短い時間に、チームが生み出せるであろう最高の成果に導いていくのです。
環境変化が予測できない不確実な時代では、敏感に変化を感じ取り、迅速に手を打って、その結果を素早く組織にフィードバックする方がはるかに賢明です。
これからの組織の競争優位は、環境に応じて自らを変化させる速度、すなわち「学習するスピード」に他ならないのです。
組織の中に自らが学習する仕組みをしっかりと築き上げ、しかも学習のサイクルをできるだけ速めるしか勝ち残れません。
そのためにファシリテーションを導入する企業が増えています。
2. チームの相乗効果を発揮させる
ファシリテーションがもたらす二つ目の効果は、メンバーの相乗効果が発揮できることです。
ピラミッド型の組織では、異なる組織に属する人の知識は組織(上位者)を通じてなされ、相乗効果が発揮し難い環境にありました。
この欠点を補うのが、プロジェクトに代表されるネットワーク型の組織です。
プロフェッショナルな専門的知識を持った人々を部門横断的に集めて、持てる知識を掛け合わそうというの
です。
こういった自律分散的な活動を従来のやり方でマネジメントしようとすると、人と人の間を駆け回って調整する羽目になります。
相乗効果を発揮させるには、多様な考えを持った人々が、自由に安心して意見を交換できる場を作るのが一番です。
そのなかで、互いの考えを共感とともに理解させ、異なる知識や文化 をぶつけ合わせます。
そうして初めて、チームの良さを活かした斬新なアイデアや深い学習が生み出されていくのです。
そういった質の高い場づくりこそが、ファシリテーションの真髄なのです。
3. メンバーの自律を育む
三つ目に、メンバーの自律性を育み、個人を活性化することがあります。
なにかの成果をめざしてチーム活動をしたときに、成功か失敗かを決める要因が、大きく分けてふたつあります。
ひとつは、チームが採った戦略の良し悪しであり、もうひとつは、それ に対するメンバーの納得性です。
このとき、戦略が優秀で納得性が高いのが一番よいのはいうまでもありません。
意外なのは、戦略が優れていて納得性が低い場合より、戦略が多少まずくても、メンバーの納得性が高い
方が、成功確率が高いのです。
なぜなら成果を決めるのは、意思決定ではなく実行の良し悪しであり、メンバーが当事者意識(オーナーシップ)を持って真剣に課題に打ち込むか否かが実行の良し悪しを決めるからです。
自らが主人公となりリーダーとなってこそ、人は本当の力を発揮できます。
自律性こそが個の活性化の原点であり、個が活性化すれば必ず組織全体もいきいきとしていきます。
自律性を高めるためには、自分のなすべきことを自分で決め、自分で実現していくしかありません。
誰もが、自分で決めたことなら一所懸命やろうとします。
組織の意思決定の過程に参加させることは、仕事へのコミットメントを高めるのに最適なのです。
その結果として目標が達成できれば、組織で活動する醍醐味が味わえます。
達成感に加えて、自分自身で人生を切り開いているという「自己有能感」や仲間から認められたという「承認 の喜び」が得られます。
組織への帰属感も強まり、さらなるモチベーションへとつながっていくのです。
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■良いファシリテーションに求められる技術 |
ファシリテーションで用いる3つの基本スキル
実践的なスキルとしては「コミュニケーション(対人)系のスキル」と「思考(論理)系のスキル」の二つに大別できます。
(1) 場のデザインのスキル―――場を作り、つなげる
何を目的にして、誰を集めて、どういうやり方で議論していくのか、知的相互作用の場づくりからファシリテーションは始まります。
単に人が集まればチームになるのではありません。
目標の共有から始まり、結果を出していくまでチーム全員に対して意識を共有して、あらたな「場」を作ります。
(2)構造化のスキル―――かみ合わせ、整理する
発散が終われば収束です。
論理的にもしっかりと議論をかみあわせながら、議論の全体像を整理して、論点を絞り込んでいきます。
このあたりはロジカルシンキングを始めとする思考系のスキルが求められます。
加えて、構造化のツールをできるだけ多く頭の引き出しに入れておいて、議論に応じて自在に使い分けら
れなければいけません。
(3)合意形成のスキル―――まとめて、分かち合う
論点がある程度絞られてきたなら、創造的なコンセンサスに向けて意見をまとめていきます。
問題解決であれば、意思決定のステップです。
多くの場合には、ここで様々なコンフリクト(対立・葛藤)が生まれ、簡単には意見がまとまりません。
コンフリクト・マネジメントのスキルが求められ、ファシリテーターの力量がも っとも問われるところです。
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■チーム活動の場をデザインする |
チーム活動の設計は、問題解決活動の水先案内人であるファシリテーターの最初の仕事であり、活動の成否を左右する重要なステップです。
具体的には、チーム作りから活動プロセスのデザインまで、チーム活動の枠組みの設計を意味します。
(1) 目的
目的があって初めて、組織は組織として機能します。
「共通目的」は「協働意欲」と「コミュニケーション」と合わせて、組織の三要素のひとつと言われています。
目的とは「チームは何を目指して活動するのか」という「方向性」のことです。
組織やプロジェクトでいえば「ミッション」にあたり、会議やワークショップで言えば「狙い」になります。
「目的」は「何のために活動するのか」「なぜ我々が集まっているのか」という「活動の意味(意義)」に他なりません。
その意味がメンバーできっちりと共有されていないと、活動がチグハグになってしまい、効果的なチーム活動にならないのです。
企画の段階で目的を明確にしておくとともに、それをどうやってメンバーに徹底させるのか、落とし込みのやり方も考えておく必要があります。
(2) 目標
目的は方向性です。
それだけでは何をめざせばよいのか、具体的な姿が見えてきません。
そこで必要になるのが到達点(ゴール)、すなわち「目標」です。
組織やプロジェクトでいえば「ビジョン」にあたり、会議やワークショップでいえば「アジェンダ」になります。
大切なのは、メンバーの頭の中でゴールの姿やアウトプット(成果物)のイメージが湧きやすいよう、またその食い違いが生まれないよう、具体的に表現することです。
たとえば、「新規事業のアイデア」を目標にするなら、「○年以内に○億円の売上をめざす事業アイデア」といったように、成果のレベルを決めておく必要があります。
そうしておけば、活動が終わった後で振り返る際の判断基準にもなります。
報告書やアクションプランをまとめるのなら、どういう内容のものを作るのか、目次くらいは用意しておきた
いところです。
また、学習などの内面的な成果を求めるときでも、「みんなが○○な気持ちになる」「チームで○○が起きる」など、予定通りにいったときのイメージを事前にすり合わせておくといでしょう。
(3) 規範
どんな組織にも様々な規範(ルール)があります。
チーム活動においても、チームの中だけで通用する行動指針があれば便利です。
とはいえ、急ごしらえのチームでいきなり価値観を合わせろというのは無理な話です。
「多様性を尊重する」「オープンな活動をする」といった社会的な価値基準のなかで、特にこだわりたい点を挙げるのが、やりやすい方法です。
もうひとつ決めておきたいのが「グランドルール」と呼ばれる、コミュニケーションや情報の共有化を進める上でのルールです。
議論を円滑に進めるのはもちろん、議論の進行を妨げる人に対処する際のよりどころにもなります。
ファシリテーターもこのルールに従うとともに、お目付け役の役割も果たします。
あまり抽象的な言葉を並べるよりは「人の話をよく聴く」「肩書きや立場を忘れる」といった具体的な表現の方が使いやすくなるでしょう。
(4) プロセス
プロセスとは、目標に到達するための道筋(ロードマップ)です。
メンバーの歩調をそろえるためにも、個々の活動の位置付けを理解するためにも、活動の前にプロセスを明らかにして チームの同意をとっておかなければなりません。
(5)メンバー
実質的に、活動の成果にもっとも大きな影響を与えるのはメンバーの選定です。
目的にふさわしいメンバーを選ぶのはいうまでもなく、重要な利害関係をもれなく加えておかないと、せっかくのアイデアが実行されずにお蔵入りとなってしまいます。
メンバーは多すぎても少なすぎてもいけません。
できるだけ少ない人数で最大の知恵を集めるようにします。
メンバーは必ずしも固定化する必要はなく、常にチームをオープンにしておくのも、よい成果を生み出す秘訣です。
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■おすすめの参考図書
ビジネスパーソン必読の本。会議を活発化させ、ベストな成果を出すために。
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