●コンプライアンスとは |
●コンプライアンス
コンプライアンスは「法令遵守」だけでなく、「法的な問題が無ければ何をやってもいいのか」=「法の目をかいくぐる」行為で倫理観に反するものもある。
●日本企業の体質
戦後、日本の企業が最優先にしてきたのは「売上げ拡大」であり、その後は「利益優先主義」だった。
その過程でコンプライアンスの精神は犠牲にされてきた。
また、組織に属する従業員の立場は「命令に従う」が優先され、社会倫理や常識ではなく、企業の方針や上司の指示が第一だった。
しかし、今や企業倫理、コンプライアンスが強く求められている。
★コンプライアンスが守られなかった場合、その企業はどうなるか? |
●コンプライアンスの3つの柱 |
1)倫理規範・・・社会の常識や倫理を守る
2)社内規範・・・社内規定、マニュアル、SOP、倫理綱領などのルールを守る
3)法令規範・・・企業を取り巻く法令(GCP等)を守る |
●コンプライアンス経営は「リスクマネジメント」 |
「コンプライアンス経営」とは、コンプライアンスを遵守して経営を行うということだが、その狙いは「コンプライアンスを遵守することにより不祥事を防ぐ」という点にある。
換言すれば「コンプライアンスによって企業が被る損失を防ぐ手法」とも言える。
これはコンプライアンス・リスクマネジメントとも呼ばれる。
1)未然防止
リスクを洗い出し、事前に対策を実行することによって発生そのものを防ぐ。
例)情報漏洩を防ぐためにUSBの利用を制限する
2)損失制御
事故が発生した場合の損失をできる限り少なくするために事前に対策を打っておく。
例)重要な書類にパスワードをかける
3)再発防止
事故が起こったあとに原因を分析して再発防止策を実施する。
例)ゲートキーパーを設ける |
●何故、モラルハザード(道徳的危険・倫理観の欠如)が起きるのか? |
*モラルとは何か?
不祥事の中には企業のモラルが問われるケースが多い。
ここで言うモラルとは社会倫理観を意味し、「善悪の判断」と言い換えることもできる。
ここで重要になってくるのは善悪をジャッジする基準である。
企業が判断すると言っても、最終的には人間が判断を下すことになる。
*モラルハザードのメカニズム
1)個人または組織にメリット(利益)となる要因が発生する
2)モラルハザードを起こす環境の変化が起こる
3)モラルを守る意識が低下する
*集団主義が低下させる罪悪感
組織というものは「集団主義」による倫理観の低下が発生しやすくなる。
「みんな(で)やっていることだから」という罪悪感の分散と「みんな(が)やっていることだから」という罪悪感の共有がこれに該当する。
*倫理観が高い人も企業や業界の常識に流され、あたり前の行動ができなくなることがモラルハザードにつながる。
★被験者を最も多く登録してくれた治験責任医師から、CRFの記載はモニターができるところ(数字の転写やチェックをつける等)はやっておいて、と言われた。CRF回収の締切も近づいている。
どうするか? |
●情報の隠ぺい・情報の漏えい |
●情報隠蔽
*モニターが自分に不都合な情報を上司に連絡していなかった。
例)治験分担医師が追加されたが、そのための契約変更を行っていなかった。IRBの承認通知書を紛失した。等
●情報漏洩
*治験責任医師や治験分担医師の情報が入っているPCを紛失した。
*A社のプロトコルの内容をB社に教えた。
*内部へのメールを誤って外部へ送信した。 |
●「先送り」「黙認」する組織が腐る |
「贈賄」「データ捏造」「安全管理」「情報隠蔽」「情報漏洩」などと、ひとくちに企業不祥事と言っても実際にその範囲は多岐にわたる。
しかし、それぞれの事件に共通して見られるのはリスクに対する認識が甘い組織風土だ。
リスク認識が甘い組織風土の1点目の特徴は、問題を先送りする体質である。
問題や危機が指摘されても、それを先送りしたり黙認すると問題が雪だるま式に膨れ上がり、重大な問題に発展する。
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●慣習、業界の常識を見直す |
粉飾決算、談合、贈賄など業界の常識が社会の非常識になっていることがある。
もう一度、見直してみよう。 |
●利益よりコンプライアンスを優先する |
不祥事を起こした企業において、企業と社員のベクトルが合致しているケースがある。
それは「利益優先主義」という方向性だ。
三菱自動車のリコール情報隠蔽事件では、欠陥を認めてしまったら企業に多大な損失が発生するという点で企業と社員の意識が合致してしまった。
「コンプライアンス」と「企業利益」は短期的にみると相反するかもしれない。(長期的に見れば一致)
そのときにどちらを優先しなくてはいけないか、答えは極めて簡単で、コンプライアンス優先が大原則だ。
「何かあったらコンプライアンスを最優先する」という意識が組織全体で統一されていないと、現場がコンプライアンスを無視して利益主義に走ってしまい、結果的に不祥事につながってしまう。
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●なぜ企業不祥事は、なくならないのか |
なぜ、企業不祥事を起こし、危機に陥るのか。
なぜ、いつまでたっても企業不祥事はなくならないのか。
そして、どうすれば企業が危機に陥ることを防げるのか。
それを知るには、まず、日本社会に根強く残っている「企業に危機をもたらす社会的要因」を検討しなければならない。
これには3つある。
1)日本的風土としてのタテマエ論
2)現状認識の欠如
3)リスク管理という発想の欠如 |
●1.日本的風土としてのタテマエ論 |
1997年、三菱自動車工業は総会屋に対する利益供与事件を起こす。
社長が辞任する。
「今後はコンプライアンス経営を進める」という言葉があった。
倫理担当部署が作られ、コンプライアンス・マニュアルが社員に配布された。
2000年、同社は内部告発で欠陥車のリコール隠しが発覚した。ここでもまた社長が辞任する。
2004年、新たに欠陥車のリコール隠しが発覚した。
このように不祥事を繰り返して企業存続の危機を招いた原因は、この会社がコンプライアンスをタテマエ、あるいは社会的非難を逃げるための一時しのぎのアリバイとしか考えてこなかったことにある。
何故、同じ企業で不祥事は繰り返されるのか。
どうして企業は失敗から学ぶことができないのだろうか。
それは、社会のルール(法律)を単なるタテマエと考えるだけで、「社会のルール」と「社会ルールに反する会社のルール」を場に応じて使い分ける日本企業独特の風土に原因がある。
昔は、日本の企業社会を規律していたのは、法律ではなく行政指導や政治家の調整、業界の慣習だったからだ。
このような社会環境の下で、法律の多くは単なるタテマエに過ぎず、実効性を持たなかった。 |
●タテマエとしてのコンプライアンス |
*コンプライアンスをリスク・マネジメントと捉えない。
↓
*コンプライアンスは利益追求に反するという意識
*コンプライアンスは「道徳」の問題に過ぎないという意識
↓
*タテマエ(アリバイ)としてのコンプライアンス
↓
*形式的なシステム(名前だけのコンプライアンス部の設置)
↓
*リスク・マネジメントとして機能しない
↓
不祥事
↓
*「今後はコンプライアンス体性の確保に努めます。」というタテマエのお詫び |
●2.現状認識の欠如 |
企業の不祥事が続発するのを見て、「昔はこんなことがなかった。最近は日本企業の質が落ちた」と嘆く人がいる。
しかし、この理解は間違っている。
企業行動は変わっていない。
日本社会のほうが変わったのだ。
*GCPなど全く無かった時代
↓
*局長通知としてのGCPの時代
↓
*省令としてのGCPの時代(ICH−GCPの時代=国際化)
談合は摘発され、公務員接待は贈収賄とされるのが常識となった。(以前は違った。)
このような社会の劇的な変化をもたらしたのは何なのか?
それは、国際化である。
バブル崩壊と時を同じくして、1990年代からわが国の真の国際化が始まった。
それまで極めて高い参入障壁に守られてきた日本という巨大マーケットを外国企業に開放し、日本企業と対等の条件で競争することを認めた。
日本市場の自由化であり、規制緩和だ。
この「国際化=自由化」は、透明性のあるルールとその厳格な適用を要求する。
ICH−GCPはまさにその象徴である。
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●3.リスク管理という発想の欠如 |
*リスク分析が行われていない。
日本企業が深刻な危機に陥る場合を見ると、次のような典型的なパターンがある。
それはリスク分析が行われていないまま重大な決定がされるということ、つまり「リスク管理」という発想の欠如である。
企業の目前に危機的状況が存在している、にも関わらず、企業内で、その時点での作為、不作為のもたらす影響についてのリスク分析が行われることはない。
複数の選択肢を多角的に比較しつつ、その利害損失についての議論が企業内で行われておらず、あいまいなまま、何となくコンセンサスができあがる。
このようなパターンで、知らず知らずのうちに危機的状況は深刻化していく。
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●ハインリッヒの法則 |
ひとつの重大な事故の背景には、かすり傷程度の事故が29件、事故には至らないが「ヒヤリ・ハット」する事例が300件存在する。
小さなヒヤリ・ハットを見逃してしまうと、重大な事故が発生してしまう。
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■参考になる図書、倫理、企業倫理、コンプライアンスに関する本
●会社はなぜ不祥事を起こしてしまうのか―60分で身につくコンプライアンス/楽天
●なぜ企業不祥事は、なくならないのか―危機に立ち向かうコンプライアンス/楽天
●コンプライアンスの考え方―信頼される企業経営のために (中公新書)/楽天 |